大阪高等裁判所 昭和37年(ム)9号 判決 1963年12月16日
再審原告 宮原富士弘 外二名
再審被告 原野喜一郎
主文
再審原告等の訴をいずれも却下する。
再審の訴訟費用は再審原告等の負担とする。
事実
再審原告等訴訟代理人は、「原判決(大阪高等裁判所が昭和三五年一二月二三日同庁昭和三四年(ネ)第一四二号土地明渡等請求控訴事件につき言渡した判決)を取消す。再審被告は再審原告宮原富士弘に対し第一審判決添付物件表記載の第一から第四までの土地を明渡し、かつ三八、八八〇円及び昭和三一年四月一日から右明渡済まで一ケ月六七九円の割合による金員を支払え。再審被告は再審原告宮原亀雄に対し前記物件表記載第五の土地を明渡し、かつ一八、九〇〇円及び昭和三一年四月一日から右明渡済まで一ケ月三二九円の割合による金員を支払え。再審被告は再審原告宮原五郎に対し前記物件表記載第六の土地を明渡し、かつ一四、六一八円及び昭和三一年四月一日から右明渡済まで一ケ月二五五円の割合による金員を支払え。本訴の訴訟費用全部及び再審の訴訟費用はいずれも再審被告の負担とする。」との判決を求め、その再審の事由として、再審原告等は昭和三一年五月二九日再審被告に対し大阪地方裁判所に土地明渡等請求の訴(同庁昭和三一年(ワ)第二、一三七号事件)を提起したが、昭和三三年一二月二二日再審原告等敗訴の判決の言渡を受け、大阪高等裁判所に控訴した(同庁昭和三四年(ネ)第一四二号事件)ところ、同裁判所も昭和三五年一二月二三日控訴棄却の判決を言渡したので、再審原告等は更に最高裁判所に上告の申立をした(同庁昭和三六年(オ)第四一五号事件)が、昭和三七年六月一日上告棄却の判決の言渡を受け、前記控訴審判決(以下原判決という)は確定した。ところが原判決には次に述べるような再審の事由があるから右判決の取消を求める。
一、原判決後判決の基礎となつた事実が後の行政処分によつて変更せられた。即ち
(一) 本訴の目的たる第一審判決添付物件表記載の土地(以下本件土地と略称する)は昭和三六年三月三一日大阪市告示第一六二号により大阪市都市計画新大阪駅周辺土地区劃整理の施行区域に編入せられ(建設省告示第四六三号参照)、農地法にいう農地ではなくなつたのである。故に本件土地は仮りに現状が農地であつても、自作農創設特別措置法第五条の規定の趣旨により農地調整法第四条の適用がなく、知事の許可又は農地委員会の承認がなくても所有権の移転はもちろん土地明渡の請求をなしうるものである。そして右の行政処分は原判決後になされたもので、その効果が前になされた原判決の効力に影響を与えるものであるから、民事訴訟法第四二〇条第一項第八号の再審事由に該当するものである。
(二)次に原判決は本件土地を農地であると認定したが、原判決後に大阪府は本件土地を新東海道線の線路敷地として国鉄に使用を許している。このように大阪府が国鉄に使用を許したことも一種の行政処分と解すべきである。しかして大阪府が国鉄に鉄道線路用地として本件土地の使用を許したことは、即ち本件土地が農地でないと認定したからであつて、この時において本件土地の農地としての取扱を解除する行政処分がなされたものといわねばならない。かかる土地は再審原告等において知事の許可又は農地委員会の承認なくして再審被告に明渡を請求することができるから、前述のとおり、民事訴訟法第四二〇条第一項第八号に該当する事由があるというべきである。
二、原判決は判決に影響を及ぼすべき重要なる事項につき判断を遺脱している。即ち本件土地は昭和一五年一二月八日土地台帳上その地目が宅地に変更せられており、昭和一六年以降今日まで宅地として固定資産税を納付している。所轄区役所も毎年本件土地を調査して固定資産の価額を定め固定資産税を徴収しているのである。そして前所有者原内武において本件土地を農地に改めた事実もない。たまたま本件土地が再審被告に賃貸せられて、同人が耕作しているとしても、それは休閑地利用であつて、農地に変更されたものではない。農地調整法第二条にいわゆる耕作の目的に供せられる土地というのは固よりの農地をいうのであつて、本件土地の如く本来宅地であるべきものが、国策により休閑地としてたまたま耕作を業とするものに賃貸せられてその者が耕作の用に使用することがあつても、その土地が本来の農地に変更せられたと見るべきではない。現に本件土地は中途において株式会社住友銀行に賃貸されたのである。故に再審被告がいわゆる小作をしていた土地でないことが明らかである。従つて原判決が本件土地が農地であるから、所管庁の許可を受けずして所有権の移転があつても無効であると判断したのは誤審で、宅地に変更せられた事実を判断の資料とすることを逸したものであつて、結局民事訴訟法第四二〇条第一項第九号の判決に影響を及ぼすべき重要なる事項につき判断を遺脱したときに該当する。
と述べ
再審被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、本件再審の請求は再審の適法要件を具備しないから却下せらるべきである。即ち
一、再審の訴につき、その適法要件として民事訴訟法第四二〇条第一項第八号に該当するというためには、確定判決の基礎となつた特定の行政処分が存すること及び右行政処分が後の裁判又は行政処分により遡及的に変更されたことの二点の主張があることを要し、また同第九号に該当するというためには、当事者が適法に提出した攻撃防禦方法で当然判決の結論に影響するものに対し判決理由中で判断を示さなかつたことの主張があることを要するものであり、かつ右事由が存しても上訴においてこれを主張したとき又はこれを知りながら主張しなかつたときは再審の訴を提起しえないことは法文上明らかである。
二、しかるに再審原告等の主張はいずれも右要件を充たしていない。即ち右第八号に該当する事由については、確定判決の基礎となつた行政処分が何であるかについて何等主張がなく、また第九号該当事由については原判決の理由を一読すれば何等の判断遺脱の点のないことが明瞭であるばかりでなく、上告がなされた原判決に対しては同条第一項但書により右事由を以て再審の訴を提起しえないことは明らかである。
と述べた。
理由
再審原告等が昭和三一年五月二九日再審被告に対し大阪地方裁判所に本件土地明渡等請求の訴を提起し(同庁昭和三一年(ワ)第二一三七号事件)たが、昭和三三年一二月二二日敗訴の判決の言渡を受け、大阪高等裁判所に控訴した(当庁昭和三四年(ネ)第一四二号事件)ところ、同裁判所においても昭和三五年一二月二三日控訴棄却の判決の言渡があつたので、更に再審原告等は最高裁判所に上告の申立をした(同庁昭和三六年(オ)第四一五号事件)が、昭和三七年六月一日上告棄却の判決の言渡を受け原判決が確定したことは本件記録によつて明らかである。
そこで再審原告等の再審申立事由につき判断する。
一、民事訴訟法第四二〇条第一項第八号に該当すると主張する各事由(前示一の(一)、(二))について、
同号にいう「判決の基礎と為りたる行政処分が後の行政処分に依りて変更せられたるとき」とは原判決が或る行政処分の成立及びその効力を前提としてなされた場合に、その行政処分が後の行政処分によつて遡及的に取消された場合をいうのであつて、再審原告等主張のように原判決の基礎となつた事実が後の行政処分によつて影響を受け或は変更せられるに至つた場合をいうものでないことは右法文により明らかである。そして原判決が特定の行政処分の成立及びその効力を前提としてなされたものでないことは、その判決理由により明白であり、再審原告等主張の右各事由が原判決の基礎となつた行政処分の変更に該らないことはいうまでもないから、右各事由は再審申立の理由となしえない。
二、同条第一項第九号に該当すると主張する事由(前示二、)について、
原判決に存する、判決に影響を及ぼすような重要な事項についての判断遺脱は上告理由として主張し得るものであり、再審原告等は原判決に対する上告理由においてその主張のような事実を主張していないことは本件記録により明らかである。なお本件記録によると、再審原告等は昭和三六年一月二三日原判決の判決正本を受領しているから、上告するにあたり、原判決にその主張のようなかしがあると思料するのであれば、その当時当然これを知つていた筈である。しかも再審原告等は当時これを知り得なかつた事実については何等主張立証していないし、再審原告等はその主張のかしを知りながら上告に際して主張しなかつたものと認めざるをえないから、右事由はこの点において再審申立の事由として許されざるものである。しかのみならず原判決理由を見ると再審原告等主張のような判決に影響を及ぼすべき重要な事項につき、判断遺脱のないことは明瞭である。
従つて本件再審の訴は正当な事由を具えるものと認めえないから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 小野田常太郎 柴山利彦 下出義明)